全国に数多く存在するゴルフ場は、個人の趣味や社交、そしてビジネスシーンなど、さまざまな目的で幅広く利用されている。こうしたゴルフ場へのアクセス手段のひとつが「会員権」と呼ばれる制度である。購入者は、特定のゴルフクラブのメンバーになることで、プレー料金の優遇や予約の優先権、メンバー同士の交流会への参加、施設を利用する各種特典などさまざまな恩恵を受けられる。このような会員権の仕組みは昔から利用されていたが、制度の中でも特に強い関心が寄せられるのが「預託金」と「返還」の問題である。まず、ゴルフ場の会員権には大きく分けて株主会員制や預託金会員制などの形態が存在している。
なかでも預託金会員制は我が国で広く普及した仕組みであり、多くのゴルフ場で採用されてきた。この仕組みは、名義書換料や年会費といった運営費に加え、まとまった金額を「預託金」としてゴルフ場運営会社に預け入れ、メンバーとなるものだ。預託金は入会時に預ける一時金の性格を有しており、一定期間の経過や退会時に原則として返還されるものとされていた。預託金が採用された背景には、ゴルフ場建設や運営に際して多額の資金調達が必要となることが挙げられる。金融機関からの借り入れに頼るのではなく、将来のメンバー候補から預託金を募ることで資金ニーズを満たし、同時に予備軍も囲い込むという戦略的な狙いがあった。
利用者から見れば、まとまった費用は必要となるものの、預託金自体は契約で定めた期日や退会時に全額返ってくるという感覚であり、購入時にはある種の安心材料と捉えられていた。しかし、こうした仕組みによって蓄積した資金にはリスクも存在する。預託金は原則として無利息であり、しかも返還請求が定められた返還日や退会時に集中した場合、ゴルフ場会社が返還資金を用意できないケースが起こり得るのである。事実、バブル経済崩壊の後には多くのゴルフ場が経営難に直面し、一部では返還請求への対応が困難となり、民事再生法や会社更生法の適用といった事態にまで発展した例もある。返還トラブルが発生した理由には複数の要素がある。
ひとつは、預託金を運転資金や不動産取得、大規模改修など営業目的に流用し、本来返還のために残しておくべき原資が十分に確保されていなかった点が指摘されている。さらに、新たな会員募集により得た預託金を旧来の会員への返還にあてがうという自転車操業的な状態に陥った事例も多い。加えて、バブル崩壊後に中古会員権の相場が急落し、新規入会者が激減したため、流動性の低下も拍車をかけた。購入者の中には、会員権取得の際に「預託金が必ず全額返ってくる」と説明を受けた人も少なくなく、後年になって思うような返還を受けられず悩む声も見受けられるようになった。法的には、預託金の性格は消費者保護法や会社法が議論される場面を持つが、破産や再生手続となった場合には、いわゆる一般債権として扱われ、希望どおりの全額返還が実現するとは限らない。
このようなリスクを避けるべく、ゴルフ場側も預託金返還の規定を見直したり、預託金自体の廃止や減額、期間延長などの措置を講じてきた。例えば、多くのゴルフクラブではあらかじめ預託金の据置期間を設け、その期間満了までは返還請求に応じないというルールを定めている場合が多い。また、名義変更や譲渡といった二次流通時にも庫出金の引き継ぎ方法や返還順位、承継条件を細かく明記することが一般化している。購入希望者には、会員権価格だけでなく、預託金の性質や返還条件を細部まで確認する姿勢が強く求められている。都道府県の消費生活センターや弁護士会にも、過去には返還に関する相談や問い合わせが多数寄せられており、トラブル未然防止には情報収集と慎重な判断が不可欠である。
現在市場に流通する会員権の多くも、価格はピーク時に比べ低水準であるが、その背景には返還リスクやゴルフ場経営の安定性というファクターが複雑に絡んでいる。制度の本質に立ち返れば、本来「会員」としてクラブの運営や雰囲気を共有し、スポーツや交流を楽しむことに主眼が置かれるべきものである。しかし、現実には投機や資産運用のツールとしての側面もしばしば強調され、結果的に期待した預託金の返還が困難になるという構造的問題が露呈した。このジレンマを乗り越えるための社会的な議論や、業界の自主努力も今後は不可欠であろう。最後に、ゴルフ場との契約を検討する際は、預託金に関する条項や返還手続き、そしてクラブの財務状況・運営姿勢を精査し、納得のうえで意思決定を行うことが肝要である。
返還リスクも含めた現実的なリスク評価が、安心なゴルフライフの出発点となる。ゴルフ場の会員権制度は、メンバーにさまざまな特典を提供する一方、「預託金」とその返還を巡るリスクが長年問題となってきた。特に預託金会員制は日本で広く普及したが、バブル期の資金調達策としての側面が強く、入会時に預ける預託金の返還請求が集中すると経営が行き詰まるケースが多発した。バブル崩壊後には返還トラブルが顕在化し、ゴルフ場経営会社の破綻例も少なくない。返還資金の流用や新規会員からの預託金を旧会員への返済に充てる自転車操業状態も多く見られ、結果として購入者が「必ず返る」と信じた預託金が全額戻らない事態も生じている。
現在、多くのゴルフ場では預託金返還規定の見直しやルールの厳格化が進み、制度の透明性向上が図られているが、依然として返還リスクは残る。会員権の取得を検討する際は、契約書の内容や返還条件、クラブの財務状況等を十分に確認し、リスクを認識したうえで慎重に判断する姿勢が欠かせない。本来の趣旨であるスポーツと交流を重視した利用と、リスクへの適切な備えがゴルフライフの安心につながると言えるだろう。